その方は、小学生の男の子のお母様。
何年か前に離婚なさって、息子さんと二人暮らしをなさっています。
軽快なフットワークで颯爽と動き回るパワフルな女性、という感じがしました。
バリバリと仕事をこなすお母様に似て、
息子さんも小さいながら要領よくお留守番をしてくれるのだとか。
残業で遅く帰宅すると、テーブルの上に郵便物が揃えてあったり、
自分でお風呂を沸かして先に入っていたり、
部屋を散らかすどころか、いつもなんとなく片付いていたり。
大好きなお母さんを助けたい、と言う気持ちが伝わってきます。
そんなステキな話しをしながらも、彼女の表情は暗かったのです。
寂しいのに無理させてるんじゃないか、
小学生が夜ひとりでコンビニ弁当のラップをはがしている姿を想像すると
申し訳なくてしかたがない、と。
実は彼女、お料理は大の苦手。
たいていコンビニのお弁当かスーパーのお惣菜をそのまま食卓に出していたそうです。
そこで•••
魔法の箱をお渡ししました。
玉手箱に風呂敷もつけて。
本当に魔法が使えるワケではありませんから、
急に料理のウデが上がる、なんてことはできません。
ただ•••
ある日、小学生の彼が自宅に帰ると•••
テーブルの上には、見たことのない風呂敷包みがありました。
風呂敷包みを見るのは初めてだった彼は、ちょっぴり苦労して結び目をほどいたそうです。
現れたのは、見たこともない綺麗な箱。
一番上のフタを開けるとサラダと唐揚げが入っていました。
2番めの箱には、3種類のおむすび。
一番下の箱には、フルーツゼリーがキラキラと輝いていました。
どれほど興奮して喜んでいたかを
その方は嬉しそうに話してくれました。
ふだんのゴハンもお重箱に入れて欲しいって言うくらい
お重箱、気に入ってくれたようです。
「一番うれしかったのはね•••」
少女のようなはにかんだ笑顔で、彼女は言いました。
全部きれいに食べつくしたお重箱の中に
「おかあさんありがとう。おしごとがんばってね。」
というメモがあったの。