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優しさと勇気と、そして愛。

 

あの•••声をかけられて振り返ると、そこには誰もいなかった

· 純粋,無垢,感謝,感動,勇気

その日私は、たった1日を待ちきれなくて、

amazonを開くより先に、本屋さんへと向かった。

 

赤いワンピースと赤い靴。

深い色調とはいえ、かなり攻撃的な組み合わせの出で立ちで、

カツカツとヒールを鳴らして歩いていた。

ヒールの響きが足元から伝わってきて、ちょっぴり心地よかった。

 

「在庫はありません。お取り寄せだと2週間ほどかかります。」

 

マイナーな本はamazon一択かぁ••

と、思いながらエスカレーターに乗って2階のスーパーマーケットに向かった。

最初からパソコン開けてれば良かったかも、という失態を誤魔化すように

冷蔵庫の中を思い浮かべていた。

 

卵とミルクと、それから•••

 

考えながら上の階に運ばれ始めた時、

 

「あの•••」

 

後ろで若い男の声がする。

振り返ってみるものの、誰もいない。

なんだ気のせいか、と前を向くと

 

「あの、これ•••」

 

やっぱり後ろで声がする。

振り返りながら下を向くと、ちっちゃな男の子が何かを差し出している。

 

背中のランドセルが肩幅からはみだすんじゃないかと思うくらい

ちっちゃくて可愛い男の子が、すぐ後ろに立っていた。

 

「これ、落としました。」

 

もみじのような手のひらには、見覚えのある赤いイヤリング。

 

「あ、ありがとう。」

 

ふたり同時に平行移動しながら

とっさのことに、ありがとう以外の言葉が何一つ浮かんでこない。

本当は、すごく嬉しくてぎゅっと手を握りしめたいくらいだったけど

エスカレーターという逃げられない空間で

そんな暴挙に及んで泣かれたらどうしよう、とか

不審者がいたいけな子供を誘拐している風に見えないか、とか

およそどうでもいいことを考えてオロオロしているうちに

2階へと運ばれてしまった。

 

「本当にありがとう」

 

振り返った彼の背中を見送っていたら、まっすぐ反対側のエスカレーターで降りていく。

 

?!

 

落とし物を渡すために、わざわざエスカレーターに乗って追いかけてくれたの?!

大人でも声かけづらい格好だったでしょ。

怖くなかった?

愛想のないおばちゃんでごめん。

 

感謝と感動がないまぜになって

胸がいっぱい。

 

2階の手すりから身を乗り出して、下りのエスカレーターに向かって

「ありがとぉ〜」と手を振った。

 

上を向いてこっちを見てくれた君の背中のランドセルが

天使の羽に見えたよ。