テープが擦り切れるほど聴いた、という表現がある。
音楽配信の前、CDのもう一つ前
カセットテープで音楽を聴いていた頃の話よ。
あのウォークマンだって最初はカセットテープだった。
お気に入りの曲を詰め込んだテープが特別なプレゼントだった時代があった。
どんな曲が入っているかで人となりが分かってしまうような気がしていた。
No music, No life 音楽なしでは生きられないというほどずっと耳元で音が鳴っていた時代を誰もが経験しているのでは?
少なくとも私はそうだった。
どうしてあんなにときめいたのか、なぜあの旋律がないといられなかったのか、今となっては思い出すこともできないけれど、確かにそんな時期はあったのよ。
起きている間ずっと私の耳元で鳴り続けていた。
それがお母さんになった頃からアンパンマンや機関車トーマスのテーマに変わっていったような気がする。
そのあとはアニメソングに移行してJPOPやボーカロイドが加わって•••あぁこれは明らかに息子たちの影響だ。
そんなこんなで、いまでは歩きながら聞くのは本要約解説ぐらいかしら。
なのに うっかり地雷を踏んでしまったらしい。
街なかで遠くに聞き覚えのある旋律をひろってしまった。
誰の曲だったのかさえ思い出せない。
だけど、それこそテープが擦り切れるほど聴いた覚えがある。
ほんの一瞬だったから、もしかしたら違う曲かも知れない。
それでも、短い旋律の欠片がトゲのように刺さっている。
自宅に戻ってPCでありとあらゆる記憶を辿って検索した。
数々の誤爆を経て、ようやくたどりついたのは
ほんの半年ほどの間、狂ったように聴き続けていたアーティスト。
音楽性云々ではなくて、ただただ懐かしくて鼓動が走る。
あの頃の風景、部屋のレイアウト、一緒にいた人たち、盛り上がった話題、
一気に時間が巻き戻って胸がいっぱいになる。
住んでいた街の雑踏や匂いまで蘇るような気がして動けなくなっていた。
数十年もの間を飛び越えることができたのは、その間それをまったく聴くことがなかったから。
だから一気に飛び越えていったのだ。
この曲、数年後に聴いても今ほどの感動はないのかと思うと少し残念な気もする。
とにかく懐かしいという感情がドーンとやってきて倒れそうだった。
一途で健気な自分に胸が痛む。
タイムスリップは心臓に悪い。