忘れ物チャンピオン。
なかなかに不名誉な称号である。
「いってきまぁ〜す」
元気よく家を飛び出す背中に
「いってらっしゃい、気をつけてね。」
と、呪文のような決り文句を唱えて目線を落とすと、そこには
ランドセル?!
おまえはいったい、どこになにをしに行くのだ?
アタマの中で叫びながら、ガッとランドセルを引っ掴み
転げるように走る息子を追う。
遠足の日、絶対に忘れ物のないようにと玄関にリュックや水筒をおいて
スタンバイOK。
さすがに今日は大丈夫だろう。
•••なワケがない。
水筒はちょこんと所在なさげに玄関でたたずんでいた。
そんな調子で迎えた担任の先生との面談。
お子さんの忘れ物はお母さんの責任です、と言われても返す言葉がない。
あーだこーだ言われる前に、先に謝ってしまおうと姑息な考えにとらわれていた。
そんなこんな覚悟して、先生の待つ放課後の教室へとむかう。
小学校低学年の面談は散々なものだった。
どれほど周りに迷惑をかけているか、どれほど忘れ物が多くてヒドいありさまなのかを延々と聞かされるだけの、針のむしろに座っているかのような時間だった。
クラス替えがあり担任の先生も代わったけれど、息子が変わった様子はなかった。
ため息ともつかない深呼吸をして面談に臨んだ私の口は、
先生の前に座った後、ポカンと開いたままになった。
私と同じ年代であろうと思われる新しい担任の先生は、息子の学校での様子をいきいきと語ってくれた。ムードメーカーで助かっています。本を沢山読んでいるので物知りでお友達の質問に答えてくれますetc.
入学以来、そんなふうに言ってくれた先生など一人もいない。
小学校という壁の中の息子の様子を講談のように語ってくれた。
私の知らない息子の様子•••
鼻の奥がツーンとしたかと思った次の瞬間、ポロポロと涙が落ちて止まらなくなった。
でも先生、忘れ物が多くて
そう言った私をまっすぐ見て、彼女は
「彼には失敗をする権利があります。」
きっぱりと言い切る。
「お母さんは彼が失敗する機会を奪ってはいけません。」
忘れ物をして困らなければ、忘れ物はなくならない。
失敗をするから、失敗しない方法を考える。
その貴重な機会を奪ってはいけないと諭された。
小中学生の男の子は蛹(サナギ)と一緒です。
蛹の中身はドロドロぐちゃぐちゃ。
だけど、羽化する頃にはちゃんと整います。
理解できないことがあったら、蛹なんだなと思ってください。
あのときの担任の先生の言葉が
理解不能な次世代未聞男子を育てるママを救ってくれた。