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漆器屋さんという職業柄、お着物が登場する頻度はかなり高い。
気候や季節、行事などを鑑みて、おおよそ半月ごとに着物と半襟、帯揚げ帯締めを選んで衣桁にかけておく。
今年の夏は長く暑かった。だから夏着物は毎回洗うことになり、めずらしくすべての夏着物がフル出場と相成った。
常々、出し忘れたお雛様は、次の出番まで箱の中でボヤいているのではないかと思っている。
夏着物も同じように、何年もの間しまわれたままになっていたら箪笥の中で悶々としているのではないかと気になっていたのだ。
今年の夏着物はフルコンプ。汗ダクだったけれど満足している。
地球温暖化と言われ始めて着物の景色も随分と変わってきた。
子供の頃、おばあちゃんは暦どおりに着物を選んでいた。気温ではなく暦ファースト。
おばあちゃんゴメンね、あなたの孫は気象予報士と相談して選んでるよ。
ここ数年は単衣(ひとえ)とよばれる裏地のないものを着る期間が長くなっていた。
薄手である分、調節がしやすくて重宝していたのは、心地よく温かい日が多かったからだと思う。
ところが、だ。
この秋、秋を感じ入るほどの期間はなかったかのように突然寒くなって、単衣は早々に退場の憂き目をみた。
単衣に半幅帯のお気楽な季節が短くて寂しいとすら思う。
そして、衣桁にはずっしり厳格な袷があらわれた。
不思議なもので、選び終わって衣桁にかけてみると、それは大きな絵画のようで
「やっぱり着物は袷よねぇ」などとニヤニヤしている。