彼はいまサナギ(蛹)なんです。
担任の先生の口から出たのは、そんなファンキーな言葉だった。
息子の学校からは、たびたび電話をいただいた。
そのたびに「申し訳ありません」と平謝りする。
いつの頃からか、先に謝り、その後「今度は何をしましたか」と聞いていた。
サナギって、中身はドロドロなんです。
それが時間を経て、成虫に形成されて羽化するんです。
成虫になるために必要なドロドロの訳の分からない時期なんです。
そう説明してくれたのは、担任の先生。
彼女は小学生時代の息子をもっとも理解してくれていた。
すべての先生方が眉をひそめるコトでも、
そうしたかった彼の気持ちは分かります、と言ってくれた。
たった一人でも、そう言ってくれる人がいる。
それがどれほど有難かったか、忘れることなどできない。
ウチの息子は、彼女のご主人と似ているのだそうだ。
だから理解できる、と。
なかなかの変わりモノらしく、初めてご主人のご両親と会った時、
本当にウチの息子でいいのか、いったいどこがいいのか、と
真顔で聞かれたとか。
「普通のモノサシでは測れない人です」
そう答えた彼女とご主人が、今も仲良く幸せでいてくれるよう願っている。
あの時サナギだった息子は、
今も何度目かのサナギの時期を過ごしている。
サナギになるのは、劇的な成長を遂げる前段階であると信じている。
でないと、世のお母さんたちは浮かばれない。
理解が及ばないとき、あり得ないでしょと怒りがこみ上げてきたとき、
あぁ、いまはサナギなんだと思うことにしている。
成長の止まった成虫になんかならなくていい。
サナギを繰り返して大きくなっていけばいい。
いつの頃からか、サナギの時期を愉しむようになっていた。