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10月初旬、祖母の法事がおこなわれた。
相変わらずの夏日続き。
迷ったあげく、単衣の一つ紋、銀鼠の色無地を選んだ。
暦を重んじる祖母にとって10月からは袷(あわせ)の季節。
彼女は暑さ寒さに関係なく、厳格に暦にしたがっていた。
この色無地は母の形見。
けれど母がこの着物を着たのを見たことがない。
仕立てたけれど袖を通す前に亡くなった、ということか。
そんな形見の色無地にようやく袖を通すこととなった。
祖母にとって初孫の私は完全なおばあちゃんっ子。
幼い頃の思い出のほとんどに祖母がいる。
週末はおばあちゃんちにお泊り。
夏休みのほとんどはおばあちゃんちにホームステイ。
冬休み、春休みもまた然り。
そんな大好きな祖母が、昨年の暮れに亡くなった。
お棺の中のおばあちゃんは、驚くほど小さかった。
法事を終え、自宅に戻った私は単衣をしまって袷を広げた。
ようやく季節が暦に追いついたね。
感慨深げに着物をたたむ耳元に不穏な音がする。
モスキート音
蚊だ。
高すぎる気温のおかげで夏の間なりをひそめていた蚊がいまになって出てきたらしい。
おのれ、燻り出してくれるわ!
と、たたみかけの着物をそのままに、取り出したのは定番の蚊取り線香。
そういえば今年初の蚊取り線香だ。
立ち上る煙を確認して寝室やらリビングやら持ってまわった。
すると•••
マッチ売りの少女よろしく、幼い私とおばあちゃんの姿が現れる。
この匂い、おばあちゃんちの匂いだ。
この夜、おばあちゃんが私の部屋にやってきた。